6月のある日、異なる場所でふたりの女性がお産をされました
AさんはNICUを備えた大学病院で、Bさんは私たちの助産院での出産でした
目次
Aさんの体験: 大学病院でのお産
妊娠8か月のときに、ご夫婦で当院の説明会に来院され、その際に「初めての出産なので、何かあったら心配で・・・」と、NICUもある大学病院での出産を選択されていたAさん 。
お産のリスクもなく順調な妊娠経過だったのですが、大きな病院の安心感を選択されました 。
その判断を尊重し、私たちも助産院でのお産を勧めることはしませんでした 。
そして迎えた出産当日 。
破水後まもなく、「感染のリスクが上がるので誘発しましょう」と説明され、《合成オキシトシン》の点滴をして、すぐに強烈な陣痛が始まり、約4時間で出産となったそうです 。医療者からは「初産なのに早かったですね」「安産ですね」と言われたそうですが、Aさんの心の内はまったく違うものでした 。
退院後、産後ケアで当院を訪れた際、スタッフの顔を見た途端に涙があふれ、ご自身の出産の体験や、病院を退院するまでの気持ちをお話してくれました 。
「分娩台で拘束され、大きなライトが当たって、名前も顔も知らないインターンらしき人たちが大勢並ぶ中、恐ろしくて仕方がなかった」 絶え間なく続くと感じた陣痛にひたすら耐え、4時間がとてつもなく長く感じられ、「早く終わってほしい」と思い、本当に辛い体験だったと涙を流されました 。
また、病院で産後の入院中赤ちゃんはベビー室で過ごし、母子分離状態で、3時間おきに授乳のためにベビー室に通ったそうです 。
授乳についても特に説明はなく、「とりあえず8回授乳して、あとは毎回ミルクを飲ませて」と指示されたのみ 。
ベビー室に行くには、分娩室の前を通らなければならず、部屋の前を通るたびに出産のときの恐怖がよみがえってくるため、恐ろしくて、目を閉じ、耳を塞いで歩いたそうです 。
このお話を伺い、「もっと早くAさんとお会いしていたら・・・もっと助産院でのお産をすすめていたら・・・」という悔しい思いが込み上げました 。
現在、日本では、無痛分娩や誘発分娩を選択する方が増えていますが、それと比例するように、こうして出産に恐怖を感じ、「もう二度と産みたくない」と思うお産をする方が増えてしまっているのだと、痛感しています 。こう考える理由は、のちほどご説明します 。
Bさんの体験: 助産院でのお産
Aさんと同じ日に、助産院ではBさんが初めてのお産をされました 。
助産院でのお産は、ツルンと短時間で産む方が多いのですが、Bさんは回旋異常があり、27時間もの長い時間をかけての出産となりました 。
Bさんは「難産だった」と語りながらも、目を輝かせてお産の体験を話してくださいました 。 数日後には、「あんなに痛かったのに、もう忘れちゃいました」「また産みたいな」と笑顔で話してくれました 。
陣痛中、赤ちゃんの回旋を促す処置の際には、痛みの強さから、ご主人が「俺のかわいい嫁に何をするんだ」と助産師をにらんでいた場面もありましたが、退院の日には、笑いながら「痛みも含めて貴重な経験になった」「助産院のお産を選んでよかった」と、ご夫婦でお話をしてくれました 。
産後入院中には、他のお母さんたちに幸せな体験を自慢げに語る姿がとても印象的でした 。
ふたりのお産を分けたものとは・・・
お産の「大変さ」は、時間の長さや痛みの強さで決まるものではないと、ふたりのお産から改めて気づかされました 。
このふたりの違いは、“【内分泌オキシトシン】の分泌量の違い”なのです 。
このホルモンは、自然な陣痛を促し、リラックスしている環境でより多く分泌され、脳内のセロトニンやエンドルフィンといった「幸せホルモン」とともに、痛みの記憶を和らげ幸福感を生み出します 。これを「オキシトシンカクテル」と呼びます 。
助産院では、この【内分泌オキシトシン】が満ちるような環境づくりを心がけており、長時間のお産でも、Bさんのように笑顔で乗り越えられることがあります 。助産院で出産した多くの方が、「お産が楽しかった」「幸せだった」「また産みたい」と話してくれます 。
一方、大学病院では、極度の緊張や分娩台での拘束、見慣れない医療者の存在などが【内分泌オキシトシン】の分泌を妨げ、代わりに《合成オキシトシン》によって機械的に陣痛を進めることになります 。
この、点滴の《合成オキシトシン》は、子宮を収縮させる働きはあっても、脳関門を越えないので、脳には作用しません 。そのため、幸福感につながるホルモンは脳に作用せず、記憶に残るのは「ただただ痛かった」「怖かった」という体験のみになってしまいます 。
そのため、産後の幸福感や安心感にはつながりづらいのです 。
お産だけじゃない・・・母乳育児でもオキシトシンは出ます
たとえ誘発分娩や計画無痛分娩、帝王切開などで 【内分泌オキシトシン】の分泌が少ないお産をされた場合でも、母乳育児はその分泌を促す重要な手段です 。
だからこそ、つらいお産をされた方にこそ、医療者は本気で母乳育児の支援に取り組むべきだと考えています 。
助産院では、お産後の入院中や産後ケアの際に、赤ちゃんとママが引き離されないよう、母乳育児がスムーズにできるような環境づくりを大切にしています 。
赤ちゃんとのふれあいや、一緒に過ごす時間は、ママにとっても赤ちゃんにとっても、心の安心感と回復の鍵になるのです 。







