
出産までに多くの妊婦さんを悩ませる「つわり」。いつから始まり、いつまで続くのか、特に一番辛い「ピーク」はいつ頃なのか、不安に感じている方も多いのではないでしょうか。つわりは個人差が非常に大きいものですが、平均的な時期や症状、対処法を知っておくだけでも、心の準備ができます。
この記事では、つわりのピーク時期や代表的な症状、そして辛い時期を少しでも楽に乗り切るための具体的な方法を詳しく解説します。
目次
- ○ つわりとは?
- ○ つわりの原因は?
- ○ つわりのピークはいつ?平均的な時期と期間
- ・つわりはいつから始まる?
- ・つわりのピークは妊娠何週目が多い?(平均は8週~10週頃)
- ・ピークはいつまで続く?終わりはいつ頃?
- ○ つわりの代表的な症状
- ・吐き気・嘔吐(吐きつわり)
- ・匂いに敏感になる(匂いつわり)
- ・常に何か食べていないと気持ち悪い(食べつわり)
- ・とにかく眠い・だるい(眠りつわり)
- ・症状の重さには個人差がある
- ○ つわりのピークを乗り切るための5つの対処法
- ・【食事編】食べられるものを、食べられる時に
- ・【水分補給編】脱水症状を防ぐ工夫
- ・【仕事編】職場への報告と休み方
- ・【メンタル編】「いつか終わる」と割り切る
- ・【環境編】匂い対策とリラックス
- ○ つわりのピークが終わる兆候は?
- ・急に食欲が出てきた
- ・特定の匂いが平気になった
- ・スッキリ目覚められるようになった
- ○ 「つわりのピークがない」のは大丈夫?
- ○ これは危険!つわりのピークで病院を受診すべき目安
- ・ほとんど水分が取れない
- ・体重が急激に減少した(妊娠前の5%以上)
- ・意識がもうろうとする
- ○ まとめ
つわりとは?
つわり(悪阻)とは、妊娠初期に現れる吐き気、嘔吐、食欲不振、匂いへの過敏さといった、不快な消化器症状を中心とする様々な症状の総称です。
これは病気ではなく、妊娠に伴う生理的な変化の一つと考えられています。全妊婦さんのうち約50%~80%が経験すると言われていますが、症状の現れ方、重さ、続く期間には非常に大きな個人差があります。
「なんとなくムカムカする」程度で済む人もいれば、日常生活に支障が出るほど重い症状に悩まされる人もいます。多くの場合、妊娠中期(安定期)に入ると自然に症状が和らいでいきますが、症状が重く、水分補給も困難になり、体重減少などが著しい場合は「妊娠悪阻(にんしんおそ)」と呼ばれ、医療機関での治療(点滴など)が必要となる場合もあります。
つわりの原因は?
つわりの明確な原因は、現代の医学でも完全には解明されていません。
しかし、いくつかの要因が複雑に絡み合って引き起こされると考えられています。最も有力な説の一つが、妊娠によって体内のホルモンバランスが急激に変化することです。
特に、胎盤の元となる絨毛から分泌される「hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)」というホルモンが、脳の嘔吐中枢を刺激するために吐き気などが起こるのではないか、と言われています。このhCGホルモンの分泌量は、つわりのピーク時期とされる妊娠8週~10週頃に最大になるため、時期的な関連性が指摘されています。また、同じく増加する女性ホルモンの「プロゲステロン(黄体ホルモン)」が、胃腸の筋肉を緩ませて動きを鈍くし、食べ物が胃に留まる時間が長くなることで、ムカムカ感や吐き気を引き起こすとも考えられています。
その他、ビタミン不足や、環境の変化、精神的なストレスなども、つわりの症状を悪化させる一因となる可能性が指摘されています。
つわりのピークはいつ?平均的な時期と期間
多くの妊婦さんが経験するつわりですが、個人差はありますが、その時期や期間には大まかな目安があります。
多くの場合、妊娠初期から始まり、安定期に近づくにつれて徐々に終わりに向かっていきます。この一連の流れは、妊娠に伴うホルモン分泌の変動と深く関連していると考えられています。
ただ、つわりは本当に個人差が大きいため、症状の強さや期間は人それぞれであり、開始時期が早いから重い、遅いから軽いといった明確な相関関係はありません。
つわりはいつから始まる?
つわりの開始時期は、一般的には妊娠5週~6週頃から始まる人が多いとされています。
これは、生理予定日を1週間~2週間過ぎ、妊娠検査薬で陽性反応が出て「妊娠かな?」と気づく時期とほぼ同じタイミングです。
早い人の場合、妊娠4週(次の生理予定日頃)から「なんとなく体調が優れない」「いつもと違う眠気を感じる」「食欲がない」といった、風邪の初期症状や生理前の不調(PMS)に似た変化を感じ始めることもあります。
これらの初期症状が、徐々にはっきりとした吐き気や匂いへの過敏さといった、いわゆる「つわり」の症状へと移行していきます。
一方で、妊娠7週~8週頃になってから、急に症状が出始める人も珍しくありません。開始時期がいつであれ、体調の変化を感じたら無理をせず、体を休めることを優先しましょう。
つわりのピークは妊娠何週目が多い?(平均は8週~10週頃)
つわりの症状が最も強く現れる「ピーク」の時期は、一般的に妊娠8週~10週頃とされています。
もちろん、これも個人差が大きく、妊娠7週頃にピークを迎える人もいれば、妊娠11週~12週頃まで辛い状態が続く人もいます。
「ピーク」と言っても、特定の一日だけが突出して辛いというよりは、「この2~3週間が特に辛かった」というように、ある程度の期間続くことが多いです。この時期は特に心身ともに最も負担がかかるため、無理をしないことが何よりも大切です。
ピークはいつまで続く?終わりはいつ頃?
最も辛いピーク時期(一般的に妊娠8週~10週頃)を過ぎると、多くの妊婦さんは徐々に症状が和らいでいくのを感じ始めます。
つわりの終わりが見えてくるのは、一般的に妊娠12週~16週頃、いわゆる「安定期」に入る頃とされています。ある日突然スッキリと終わるというよりは、「昨日より少し楽かもしれない」「食べられるものが増えてきた」といった形で、日によって波がありながらも、徐々に快方に向かうケースが多いです。
ただし、これも個人差が非常に大きく、妊娠中期以降も特定の匂いや食べ物に対する不快感が残る人や、中には「後期つわり」と呼ばれる別の不快症状(胃の圧迫など)に悩まされる場合もあります。また、ごく稀ですが出産まで何らかの症状が続く人もいます。
つわりの代表的な症状
「つわり」と一言で言っても、その症状は実に多彩で、現れ方にも大きな個人差があります。
多くの人が経験する最も代表的な症状は、吐き気や嘔吐です。しかし、吐き気はなくても、他の症状に悩まされるケースも少なくありません。
例えば、それまで好きだった匂いが急に不快に感じたり、逆に特定の匂いを嗅ぐと安心したりする「匂いつわり」。
空腹になると気持ち悪くなるため、常に何か口にしていないと辛い「食べつわり」。
また、病気ではないかと心配になるほどの強い眠気や、全身の倦怠感に襲われる「眠りつわり」なども、つわりの一種とされています。
これらの症状が単独で現れることもあれば、複数が同時に、あるいは時期によって入れ替わりながら現れることもあります。
吐き気・嘔吐(吐きつわり)
つわりの症状として最もよく知られているのが、「吐きつわり」と呼ばれる吐き気や嘔吐です。
ムカムカとした不快感が一日中続く、特定の時間帯(特に朝、空腹時など)に強く吐き気を感じる、実際に嘔吐してしまうなど、その程度は様々です。「食べ物の匂いを嗅いだだけで吐き気がこみ上げる」「水分すら受け付けない」という重い症状に悩まされる人もいます。
吐きつわりは、食事の摂取が困難になるため、体力的な消耗が激しく、精神的なストレスにもつながりやすいのが特徴です。食べられるものが極端に限られてしまうことも多く、「赤ちゃんに栄養が届いているか」と不安になりがちですが、妊娠初期の赤ちゃんはまだ小さく、母体に蓄えられた栄養で十分成長できるとされています。
しかし、水分すら全く摂れない、嘔吐が頻繁に続くといった場合は、脱水症状や栄養障害を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
匂いに敏感になる(匂いつわり)
妊娠を機に、急に嗅覚が敏感になり、特定の匂いに対して強い不快感を抱くようになるのが「匂いつわり」です。
これまで平気だった、あるいは好きだった匂いが、突然耐えられないほど不快に感じられるようになります。
代表的な例としては、炊きたてのご飯の匂い、お湯や出汁の湯気、炒め物や揚げ物の油の匂い、コーヒーや香水の香り、タバコや柔軟剤の匂いなどが挙げられます。これらの匂いを嗅ぐことで、強い吐き気をもよおしたり、気分が悪くなったりします。
日常生活の中に溢れている匂いがトリガーとなるため、通勤電車の中、職場、スーパーマーケット、さらには自宅のキッチンや冷蔵庫ですら、安らげない場所になってしまうことがあります。一方で、特定の匂い(レモンやミントなどの柑橘系、特定のシャンプーの香りなど)を嗅ぐと、逆に気分がスッキリするという人もいます。
マスクをしたり、ハンカチに好きな香りをつけたりするなどの対策が必要になることもあります。
常に何か食べていないと気持ち悪い(食べつわり)
「食べつわり」は、空腹になると強い吐き気やムカムカ感を感じるため、常に何かを口にしていないと気分が悪くなる症状を指します。
胃が空っぽになるのを防ぐために、食事の回数を分けて「ちょこちょこ食べ」をしたり、夜中や朝方に目覚めた際にもすぐに何か口に入れられるよう、枕元にクラッカーやアメなどを常備したりする人も多いです。
吐きつわりとは対照的に、食べることで一時的に不快感が和らぐのが特徴ですが、食べ過ぎてしまったり、特定の物(ジャンクフードや炭水化物など)ばかりを好むようになったりすることで、体重管理に悩むケースもあります。
また、食べた直後は楽になっても、しばらくすると再び気持ち悪さが襲ってくるため、食べること自体に疲れてしまうこともあります。「食べないと気持ち悪い」けれど「食べてもスッキリしない」という、ジレンマを抱えやすい症状と言えるでしょう。
とにかく眠い・だるい(眠りつわり)
「眠りつわり」は、吐き気や嘔吐といった消化器症状はそれほど強くないものの、異常なほどの強い眠気や、体を動かすのが億劫になるほどの倦怠感に襲われる症状を指します。
「いくら寝ても寝足りない」「日中でも突然、立っていられないほどの眠気に襲われる」「頭がぼーっとして集中できない」といった状態が続きます。これは、妊娠によって増加するプロゲステロン(黄体ホルモン)というホルモンに、眠気を誘う作用があるためと考えられています。
また、妊娠初期は赤ちゃんの重要な器官が作られる大切な時期であり、体が休息を求めているサインとも言えます。周囲からは「ただ怠けているだけ」と誤解されやすく、特に仕事を続けている妊婦さんにとっては辛い症状です。
吐き気がないからといって「つわりが軽い」とは一概に言えず、日常生活や仕事に大きな支障をきたすことも少なくありません。
症状の重さには個人差がある
これまで述べてきたように、つわりの症状やその重さ、期間には、非常に大きな個人差があります。
教科書通りの経過をたどる人の方が珍しいと言っても過言ではありません。吐き気で苦しむ人がいる一方で、眠気だけが強い人、匂いにだけ敏感な人、あるいは複数の症状が組み合わさって現れる人もいます。
また、同じ人であっても、第一子の時と第二子の時で、つわりの症状が全く異なっていたというケースもよくあります。「つわりは軽い方が楽」と思われがちですが、「食べつわり」で体重が急増して悩んだり、「眠りつわり」で仕事に集中できず苦労したりと、症状の種類によって異なる辛さがあります。他人と比べて「自分は重い」「あの人は軽い」と一喜一憂する必要はありません。
大切なのは、自分の今の体調と向き合い、無理をせず、自分に合った方法で辛い時期を乗り切ることです。
つわりのピークを乗り切るための5つの対処法
終わりの見えないつわりのピーク時期は、本当につらいものです。体調が優れない中で、日常生活や仕事をこなさなければならない状況は、心身ともに大きなストレスとなります。
この最も辛い時期を少しでも楽に乗り切るためには、いくつかの工夫が必要です。完璧を目指さず、「今は仕方ない」と割り切ることも大切です。
ここでは、多くの先輩ママが実践してきた対処法を、「食事」「水分補給」「仕事」「メンタル」「環境」の5つの側面に分けて具体的にご紹介します。もちろん、これらの方法がすべての人に当てはまるとは限りませんが、試してみることで、自分に合った「楽になるヒント」が見つかるかもしれません。無理をせず、できることから一つずつ取り入れてみてください。
【食事編】食べられるものを、食べられる時に
つわりのピーク時は、栄養バランスを考えることよりも、「栄養を摂ること」よりも「食べられるものを口にすること」を最優先に考えましょう。
ご飯がダメならパン、それもダメなら麺類、ゼリー、果物、クラッカー、アイスクリームなど、何でも構いません。「これなら食べられるかも」と思うものを、食べたいタイミングで、少しずつ口にしてみましょう。
一般的に、冷たくて口当たりの良いもの(そうめん、冷奴、トマト、きゅうりなど)や、酸味のあるもの(レモン、梅干し、柑橘系のジュースなど)、生姜を使った料理などが食べやすいと言われることがありますが、これも個人差があります。
無理に3食きっちり食べようとせず、空腹で気持ち悪くなる「食べつわり」の人は、おにぎりやクラッカーなどを小分けにして、1日5~6回に分けて食べる「ちょこちょこ食べ」も有効です。
【水分補給編】脱水症状を防ぐ工夫
つわりのピーク時、特に吐き気や嘔吐がひどい場合、最も気をつけなければならないのが「脱水症状」です。
食べ物は数日摂れなくても、母体に蓄えられた栄養で赤ちゃんは育ちますが、水分不足は深刻な状態(妊娠悪阻)につながる可能性があります。
水やお茶が飲みにくい場合は、氷を口に含んで少しずつ溶かしたり、レモン水や炭酸水、スポーツドリンク、経口補水液などを試してみたりしましょう。一度にゴクゴク飲むと吐き気を誘発することがあるため、ストローを使って少しずつ、こまめに飲むのがポイントです。スープや味噌汁、ゼリー、果物、野菜(きゅうりやレタスなど)から水分を摂るのも良い方法です。
それでも水分を受け付けず、「尿の回数や量が極端に減った」「唇がカサカサに乾いている」といった症状が見られる場合は、脱水のサインです。我慢せず、早めに産婦人科を受診し、点滴などの処置を相談しましょう。
【仕事編】職場への報告と休み方
つわりのピーク時に仕事を続けるのは、心身ともに非常に大きな負担です。
可能であれば、妊娠が分かり、体調が辛いと感じ始めた段階で、直属の上司にだけでも早めに報告することをおすすめします。
「安定期に入ってから」と考える人も多いですが、ピーク時(妊娠8週~10週頃)に体調不良で急に休んだり、仕事のパフォーマンスが落ちたりすると、周囲に余計な心配や誤解を与えかねません。早めに事情を説明しておくことで、時差出勤や在宅勤務への切り替え、業務量の調整、休憩時間の確保など、体調に合わせた働き方を相談しやすくなります。
体調が優れない時は無理をせず、有給休暇や傷病休暇などを利用して休む勇気も大切です。
【メンタル編】「いつか終わる」と割り切る
つわりの辛さは、体験した人にしか分からないものです。体調不良が続くと、「いつまで続くんだろう」「自分だけがこんなに辛いのでは」と、気分が落ち込み、精神的に不安定になりがちです。
特にピーク時には、孤独感や不安感に苛まれることもあるでしょう。しかし、忘れないでほしいのは、「つわりは必ず終わりが来る」ということです。多くの場合、妊娠中期(安定期)に入れば嘘のように楽になります。
辛い時期は、「今は赤ちゃんが元気に育っている証拠」「今は休む時期なんだ」と割り切り、自分を責めないことが大切です。家事が完璧にできなくても、仕事が思うように進まなくても、今は仕方ありません。
パートナーや家族に辛い気持ちを正直に話し、理解とサポートを求めましょう。また、同じ経験をした友人に話を聞いてもらったり、SNSなどで共感できる仲間を見つけたりすることも、心の支えになるかもしれません。
【環境編】匂い対策とリラックス
つわりの症状、特に「匂いつわり」や「吐きつわり」は、周囲の環境によって大きく左右されます。
不快な匂いは、できるだけ避ける工夫をしましょう。キッチンからの匂いが辛い場合は、料理をパートナーに代わってもらったり、惣菜やレトルト食品を利用したりして、キッチンに立つ時間を減らします。冷蔵庫の匂いが気になる場合は、こまめに掃除をしたり、脱臭剤を活用したりしましょう。換気を徹底することも重要です。通勤電車や職場など、匂いを避けられない場所では、マスクの着用が効果的です。マスクの内側に、レモンやミント、生姜など、自分が「心地よい」と感じる香りを染み込ませたガーゼやコットンを忍ばせるのも良い方法です。
また、締め付けの強い服装は気分を悪化させることがあるため、ゆったりとした楽な服装を選びましょう。できるだけリラックスできる環境を整え、心身の緊張をほぐすことも大切です。
つわりのピークが終わる兆候は?
つわりはピークを過ぎると、多くの場合、ある日突然スッキリと治るというよりは、日によって波がありながらも、徐々に症状が和らいでいくことが一般的です。
「昨日より少し楽かもしれない」「食べられるものが増えてきた」といった小さな変化が、終わりに向かっているサイン。一般的には妊娠12週を過ぎたあたりから、このような兆候を感じ始める人が多いようです。症状が軽くなってくると、それまで食べられなかった反動で食欲が増すこともありますが、急激な体重増加を避けるため、少しずつバランスの取れた食事に戻していくことを意識しましょう。ここでは、多くの人が経験する「つわりが終わる兆候」の代表例をいくつかご紹介します。
急に食欲が出てきた
つわりの終わりを示す最も分かりやすい兆候の一つが、食欲の回復です。
ピーク時には、食べ物のことを考えるのも嫌だったり、特定のものしか受け付けられなかった状態から、徐々に「何か食べたい」という意欲が湧いてきます。それまで食べられなかったものが急に食べたくなったり、一人前の量を完食できるようになったりします。「空腹で気持ち悪い」と感じていた「食べつわり」の人も、空腹を感じても吐き気までには至らなくなり、食事の時間まで待てるようになることが多いです。
この変化は、つわりの原因とされていたホルモンバランスが安定し、消化器系の不快な症状が改善されてきたサインと考えられます。
ようやく食事を楽しめるようになる時期ですが、胃腸はまだ本調子ではない可能性もあるため、消化の良いものから少しずつ慣らし、食べ過ぎには注意しましょう。
特定の匂いが平気になった
つわりのピーク時には耐えられなかった特定の匂いが、徐々に平気になってくることも、終わりが近いサインです。
「匂いつわり」に悩まされていた人にとって、これは大きな変化です。
例えば、それまで不快に感じていた、炊きたてのご飯の匂いや、出汁の湯気、化粧品や柔軟剤の香りなどを嗅いでも、以前ほどの不快感を感じなくなります。キッチンに立つのも億劫だった人が、自分で料理をする意欲を取り戻したり、スーパーでの買い物や外食が楽しめるようになったりします。これは、妊娠初期の過敏になっていた嗅覚が、ホルモンバランスの変化とともに正常な状態に戻りつつあることを示しています。
もちろん、全ての匂いが一度に平気になるわけではなく、特定の苦手な匂いが最後まで残ることもありますが、日常生活を送る上でのストレスは大幅に軽減されるのを感じられるでしょう。
スッキリ目覚められるようになった
「眠りつわり」に悩まされていた人にとっては、朝スッキリと目覚められるようになることが、終わりの兆候かもしれません。
ピーク時には、どれだけ寝ても眠気が取なかったのに、妊娠中期に近づくにつれて、徐々に日中の異常な眠気が引き、朝の目覚めが良くなってきます。
「体を動かそう」という気力が湧いてきたり、集中力が戻ってきたりするのを感じられるでしょう。これは、眠気を引き起こしていたプロゲステロンなどのホルモンの影響が落ち着き、体が妊娠状態に慣れてきたサインと考えられます。
もちろん、妊娠期間中は全体的に眠気を感じやすい傾向はありますが、日常生活に支障をきたすほどの異常な眠気からは解放されることが多いです。
「つわりのピークがない」のは大丈夫?
つわりの症状や重さには個人差が非常に大きいと述べましたが、中には「つわりがほとんどない」「ピークらしいピークがなかった」という人もいます。
つわりの辛さを周囲から聞いたり、情報を目にしたりすることが多いため、自分のつわりが軽いと、「赤ちゃんは元気に育っているんだろうか」「何か問題があるのでは?」と逆に不安になってしまう妊婦さんも少なくありません。しかし、つわりがないことや軽いことに対して、心配する必要はありません。
つわりの有無や強さと、赤ちゃんの成長や健康状態には、直接的な関係はないとされています。むしろ、つわりによる体調不良や食事の偏りがない分、妊娠初期を健やかに過ごせるというメリットがあります。
これは危険!つわりのピークで病院を受診すべき目安
ほとんどのつわりは、辛いながらも生理的な変化の範囲内であり、時期が来れば自然に治まっていきます。
しかし、ごく一部の妊婦さんは、つわりが重症化し、「妊娠悪阻(にんしんおそ)」という病的な状態になることがあります。
妊娠悪阻は、単なる「辛いつわり」ではなく、脱水症状や栄養障害、代謝異常を引き起こし、母体や胎児に深刻な影響を及ぼす可能性があるため、医療的な介入(点滴や入院治療)が必要となります。つわりのピーク時には、「みんな辛いんだから我慢しなくては」と思い込んでしまいがちですが、我慢のしすぎは危険です。
以下に挙げるような症状が見られる場合は、つわりのピークだから仕方ないと自己判断せず、すぐに産婦人科を受診してください。
ほとんど水分が取れない
つわりのピーク時、最も警戒すべきサインの一つが「水分補給」の状態です。
食べ物は数日食べられなくても問題ないことが多いですが、水分が全く摂れない状態が続くと、体は急速に脱水症状に陥ります。水を飲もうとしてもすぐに吐いてしまう、あるいは吐き気が強くて飲むことすらできない状態が半日以上続く場合は、危険な兆候です。
脱水が進むと、尿の回数や量が極端に減ったり、尿の色が濃くなったりします。さらに進行すると、めまいや頭痛、倦怠感が強くなり、体に力が入らなくなります。脱水は血液の流れを悪くし、腎機能にも負担をかけ、重症化すると母体の命にも関わる可能性があります。
スポーツドリンクや経口補水液、氷のかけらなども含め、あらゆる方法を試しても水分を受け付けない場合は、我慢せずにすぐに病院に連絡し、点滴による水分補給が必要かどうか相談してください。
体重が急激に減少した(妊娠前の5%以上)
つわりの時期は、食事が十分に摂れないため、一時的に体重が減少すること自体は珍しくありません。
しかし、その減少幅が急激である場合は注意が必要です。一つの目安として、「妊娠前の体重から5%以上減少した」場合は、重症のつわりである「妊娠悪阻」の可能性があります。例えば、妊娠前に50kgだった人の場合、2.5kg以上の減少が目安となります。食べられないだけでなく、頻繁な嘔吐によって体内の水分や電解質も失われ、栄養不足が深刻化しているサインです。
体重減少が続くと、母体だけでなく、胎児の成長にも影響を及ぼす可能性があります。体重を毎日測り、急激な減少が見られた場合は、早めに受診しましょう。
意識がもうろうとする
つわりの症状として眠気やだるさを感じることはありますが、それとは明らかに異なる「意識がもうろうとする」「ふらふらして立てない」「呼びかけへの反応が鈍い」といった症状が現れた場合は、非常に危険な状態です。
これは、深刻な脱水症状や栄養障害、電解質バランスの乱れによって、脳の機能にまで影響が及んでいる可能性を示しています。また、重症の妊娠悪阻では、ビタミンB1の欠乏により「ウェルニッケ脳症」という重大な脳の障害を引き起こすリスクもゼロではありません。意識がはっきりしない状態は、明らかな医療介入が必要なサインです。
妊婦さん自身が「大丈夫」と言っていても、家族から見てろれつが回っていない、会話が噛み合わない、ぐったりして動けないといった様子が見られる場合は、救急車を呼ぶことも含め、一刻も早く医療機関を受診させる必要があります。
まとめ
妊娠初期の大きな試練である「つわり」。
その症状や時期、重さには本当に個人差があり、平均とされる妊娠8週~10週頃のピーク時には、先の見えない不安と体調不良で心身ともに疲れ果ててしまう方も多いでしょう。しかし、この記事で解説してきたように、その辛いピークには必ず終わりがあります。
多くの場合、安定期と呼ばれる妊娠12週~16週頃には、徐々に症状が和らいでいきます。辛い時期は、「赤ちゃんが元気に育っている証拠」と捉えつつも、決して無理をしてはいけません。
「食べられるものを、食べられる時に」「水分補給はこまめに」を心がけ、家事や仕事は完璧を目指さず、周囲のサポートを積極的に借りましょう。そして、「ほとんど水分が取れない」「体重が急激に減った」といった危険なサインを見逃さず、我慢しすぎずに医療機関を頼ることが大切です。
ご自身の体を最優先に、この大切な時期を乗り越えてください。







