
近年、女性の社会進出や晩婚化などを背景に、30代後半から40代で出産を迎えるケースが多くなり、「高齢出産」という言葉を耳にする機会も増えました。
しかし、高齢出産は具体的に何歳からの出産を指すのか、どのようなリスクがあり、どう備えればよいのか、不安や疑問を持つ方も多いでしょう。 年齢を重ねてからの妊娠・出産には、確かに医学的なリスクが伴う側面もありますが、それを正しく理解し、適切に対策することが何よりも重要です。
この記事では、高齢出産の母体(ママ)と赤ちゃんへの主なリスク、そして安心して出産に臨むためにできる準備について詳しく解説していきます。
目次
- ○ 「高齢出産」とは何歳から?
- ・医学的な定義は「35歳以上の初産」
- ・40歳以上は「超高齢出産」と呼ばれることも
- ○ 高齢出産で高まる「母体(ママ)」への主なリスク
- ・リスク1:妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)
- ・リスク2:妊娠糖尿病
- ・リスク3:難産や帝王切開率の上昇
- ・リスク4:流産・早産
- ○ 高齢出産による「赤ちゃん」への主なリスク
- ・リスク1:染色体異常(ダウン症など)の確率上昇
- ・リスク2:低出生体重児
- ・リスク3:その他(常位胎盤早期剥離など)
- ○ 出生前診断(NIPTなど)とは
- ・出生前診断でわかること・わからないこと
- ・受ける場合の注意点と心構え
- ○ 高齢出産に向けて注意したいこと
- ・規則正しい生活を送る
- ・葉酸の摂取
- ・ストレスを溜めない
- ・医療機関を受診する
- ○ まとめ
「高齢出産」とは何歳から?
「高齢出産」という言葉は、メディアなどで広く使われていますが、実はその定義は時代と共に変化してきました。かつては、医療体制や栄養状態が現在と異なっていたため、比較的若い年齢での出産が一般的であり、30歳を過ぎると「高齢」とみなされることもありました。しかし、現代の日本では晩婚化・晩産化が進み、30代での出産はごく普通のことになりました。
こうした社会的背景の変化を受け、医学的な観点からも定義が見直されてきました。
現在では、主に統計的・医学的に母体や赤ちゃんへのリスクが上昇し始めるとされる特定の年齢が、一つの目安として用いられています。ただし、この「年齢」はあくまで統計上の区切りであり、個人の健康状態や体力には大きな差があることを理解しておくことも大切です。
医学的な定義は「35歳以上の初産」
現在、日本の産科医療において広く用いられている定義の一つが、「35歳以上での初産(初めての出産)」です。
これは日本産科婦人科学会が「高年初産」と定めているもので、医学的なリスク管理の上で重要な指標とされています。なぜ35歳が目安とされるかというと、統計的に見て、35歳を境に妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった母体の合併症や、染色体異常などの赤ちゃん側のリスクが上昇する傾向が明らかになるためです。
卵子は女性が生まれた時から体内にあり、加齢とともにその質が変化(老化)していくため、30代後半になると染色体異常の発生率が上がることが知られています。
また、加齢に伴い、高血圧や糖尿病などの基礎疾患を持つ人の割合も増えるため、妊娠による体への負担が合併症を引き起こしやすくなると考えられています。
ただし、これはあくまで「初産」の定義であり、35歳以上であっても二人目以降の出産(経産婦)の場合は、必ずしもこの定義に当てはまるわけではありません。
40歳以上は「超高齢出産」と呼ばれることも
35歳以上の「高齢出産」の中でも、特に40歳以上での出産は、医学的なリスクがさらに段階的に上昇することが知られており、「超高齢出産」と呼ばれることがあります。
これは正式な医学用語として確立しているわけではありませんが、臨床現場では、より慎重な周産期管理が必要なケースとして認識されています。例えば、ダウン症(21トリソミー)の発生頻度は、35歳では約385分の1ですが、40歳では約106分の1、45歳では約30分の1と、年齢が上がるにつれて確率は顕著に上昇します。
また、母体側のリスクである妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の発症率、さらには難産や帝王切開率、流産・早産率なども、30代後半と比較して40代ではさらに高まる傾向にあります。
そのため、40歳以上で妊娠した場合は、妊娠初期からより厳格な体重管理や血圧・血糖のチェックが行われ、NICU(新生児集中治療室)などの設備が整った総合周産期母子医療センターでの分娩を勧められるケースも多くなります。
高齢出産で高まる「母体(ママ)」への主なリスク
年齢を重ねてからの妊娠・出産は、若い世代の出産と比較していくつかの医学的なリスクが高まることが知られています。
これは、加齢に伴う身体の自然な変化が大きく影響しています。
例えば、長年の生活習慣の蓄積により、高血圧や糖尿病予備群など、妊娠前から何らかの健康上の懸念を抱えている人が増えることが挙げられます。また、年齢とともに血管の弾力性が失われたり、血糖値をコントロールする能力(耐糖能)が低下したりする傾向もあります。
こうした身体の変化がベースにある状態で、妊娠によるダイナミックなホルモン変動や循環血液量の増加といった大きな負荷がかかると、元々は健康だった人でも妊娠中に特有の合併症を発症しやすくなります。さらに、子宮や産道の柔軟性が低下することで、分娩そのものに時間がかかったり、緊急の対応が必要になったりするケースも増えます。
ここでは、高齢出産によって特に注意が必要とされる、母体(ママ)側に起こりやすい主なリスクについて具体的に見ていきましょう。
リスク1:妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)
妊娠高血圧症候群は、かつて「妊娠中毒症」とも呼ばれ、妊娠20週以降に高血圧がみられたり、高血圧に加えて蛋白尿が出たりする状態を指します。
重症化すると、母体にはけいれん発作(子癇)、脳出血、肝臓や腎臓の機能障害などを引き起こす可能性があり、非常に危険です。また、胎盤への血流が悪くなることで、胎児の発育不全や胎児機能不全、さらには常位胎盤早期剥離の原因ともなり得ます。
高齢出産でこのリスクが上昇する背景には、加齢に伴う元々の高血圧傾向や、血管の弾力性の低下などが関係していると考えられています。予防には、妊娠前からの適正体重の維持、塩分を控えたバランスの良い食事、十分な休息が重要です。
妊婦健診で定期的に血圧、体重、尿検査を受け、早期発見と適切な管理(安静、食事療法、場合によっては降圧薬治療や入院)につなげることが、母子ともに健康な出産を迎える鍵となります。
リスク2:妊娠糖尿病
妊娠糖尿病は、妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病には至っていない糖代謝異常のことです。
妊娠中は、胎盤から出るホルモンの影響でインスリン(血糖値を下げるホルモン)が効きにくくなる(インスリン抵抗性)状態になりますが、それに体が対応しきれなくなると発症します。
高齢出産では、加齢による耐糖能(血糖値を正常に保つ能力)の低下や、肥満の合併率が上がることなどから、妊娠糖尿病のリスクが高まるとされています。母体への影響としては、妊娠高血圧症候群の合併、羊水過多、肩甲難産などのほか、出産後に本格的な糖尿病へ移行するリスクも高まります。
赤ちゃんへは、巨大児(出生時の体重が4000g以上)、出生後の低血糖、呼吸障害、黄疸などのリスクが懸念されます。
診断された場合は、主に食事療法(分割食など)や血糖値の自己測定で管理を行いますが、それでもコントロールが不十分な場合はインスリン注射が必要となることもあります。
リスク3:難産や帝王切開率の上昇
年齢を重ねると、子宮頸管や産道(赤ちゃんが通る道)が硬くなる傾向があり、分娩の進行がスムーズにいかず、お産が長引く「遷延分娩(せんえんぶんべん)」になりやすいとされています。
また、加齢に伴う体力低下や、子宮の収縮力が弱まる(微弱陣痛)ことも、難産の要因となり得ます。
こうした背景から、吸引分娩や鉗子分娩といった器械分娩の割合が高まるほか、母体や赤ちゃんの安全を最優先するため、帝王切開が選択される確率も上昇します。
特に35歳以上の初産婦では、帝王切開率が顕著に高まるというデータもあります。帝王切開は安全な手術ではありますが、開腹手術であるため、出血量の増加、術後の痛み、感染症、血栓症などのリスクを伴います。
さらに、次回以降の妊娠・出産においても、前置胎盤や癒着胎盤、子宮破裂などのリスクが高まる可能性があります。分娩方法については、あらかじめ医師とよく相談し、様々な可能性を理解しておくことが大切です。
リスク4:流産・早産
高齢出産では、妊娠初期(特に妊娠12週未満)の流産の確率が上昇することが知られています。
その主な原因は、卵子の老化に伴う染色体異常の発生率が高まることです。
受精卵の染色体異常は、細胞分裂が正常に進まない原因となり、多くは着床しなかったり、着床しても早い段階で発育が止まったりしてしまいます。また、高齢出産では、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病といった妊娠中の合併症や、子宮筋腫、子宮内膜症などの婦人科疾患を元々持っている割合も高くなります。
これらの合併症や疾患は、子宮内の環境や胎盤の機能に影響を与え、妊娠22週から37週未満で出産となる早産のリスクを高める要因となります。
早産で生まれた赤ちゃんは、体の機能が未熟なため、出生後に呼吸障害や感染症などを起こすリスクが高くなります。妊娠初期の出血や腹痛には特に注意し、妊婦健診を欠かさず受けて、リスクの早期発見と管理に努めることが重要です。
高齢出産による「赤ちゃん」への主なリスク
高齢出産が母体だけでなく、お腹の赤ちゃんにもたらす影響についても理解しておくことは重要です。
母体の年齢が上がるにつれて高まるリスクの多くは、主に「卵子の質の変化(老化)」と「母体の合併症による胎内環境への影響」の二つに起因します。
卵子は女性が生まれた時から体内に存在し、加齢とともに分裂のエラーが起こりやすくなるため、受精卵の段階での染色体異常の発生確率が上昇します。
これが、流産率の上昇や、ダウン症などの特定の疾患を持つ赤ちゃんが生まれる確率が上がることにつながります。また、前述したような母体側の合併症、例えば妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などを発症すると、胎盤への血流が悪くなり、赤ちゃんへ十分な酸素や栄養が届きにくくなることがあります。
その結果、お腹の中での発育が遅れたり、予定日より早く生まれる(早産)リスクが高まったりします。
ここでは、高齢出産によって赤ちゃん側に生じる可能性のある主なリスクについて解説します。
リスク1:染色体異常(ダウン症など)の確率上昇
高齢出産で最も知られている赤ちゃんへのリスクの一つが、染色体異常の発生確率の上昇です。
これは主に、加齢に伴う「卵子の老化」が原因とされています。
卵子は女性が生まれた時から体内にあり、加齢とともにその質が変化していきます。年齢が上がると、卵子が減数分裂(染色体を半分にする分裂)を行う際にエラーが起こりやすくなり、染色体の本数に過不足が生じることがあります。
代表的な染色体異常であるダウン症(21トリソミー)は、21番目の染色体が通常2本のところ3本ある状態ですが、その発生確率は母親の年齢が上がるとともに高まります。例えば、25歳では約1,250分の1、35歳では約385分の1、40歳では約106分の1、45歳では約30分の1と、その確率は顕著に上昇します。
ダウン症以外にも、18トリソミーや13トリソミーなど、他の染色体異常の確率も同様に高まります。
これらの多くは、流産や死産の原因となったり、生まれてきても重篤な合併症を伴ったりすることがあります。
リスク2:低出生体重児
低出生体重児とは、出生時の体重が2,500g未満の赤ちゃんを指します。
高齢出産では、この低出生体重児が生まれるリスクが高まると報告されています。
その背景には、いくつかの要因が関連しています。一つは、高齢出産でリスクが上昇する妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの母体合併症です。これらの合併症は、胎盤の血流を悪化させたり、胎盤の機能を低下させたりすることがあり、その結果、お腹の赤ちゃんに十分な酸素や栄養が届きにくくなり、胎児の発育が遅れる(胎児発育不全)ことがあります。
もう一つの大きな要因は、早産のリスク上昇です。
前述の通り、高齢出産では早産(妊娠37週未満での出産)の割合が高まりますが、早く生まれればそれだけ体重は軽くなるため、低出生体重児となります。低出生体重児、特に2,000g未満や1,500g未満の極低出生体重児は、出生後に低体温、低血糖、呼吸障害、感染症などを起こしやすく、NICU(新生児集中治療室)でのケアが必要となる場合があります。
リスク3:その他(常位胎盤早期剥離など)
染色体異常や低出生体重児のリスクに加え、高齢出産では周産期の様々なトラブルが起こりやすくなります。
その一つが「常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり)」です。
これは、赤ちゃんが生まれる前に、子宮の壁に付着している胎盤が剥がれてしまう非常に危険な状態で、母体にとっては大出血によるショックやDIC(播種性血管内凝固症候群)を、赤ちゃんにとっては酸素不足による脳性麻痺や、最悪の場合は胎内死亡を引き起こす可能性があります。
発生した場合は、母子の命を救うために緊急帝王切開が必要となることがほとんどです。
高齢出産や、特に高齢出産で合併しやすい妊娠高血圧症候群は、この常位胎盤早期剥離の明確なリスク因子とされています。このほか、帝王切開の既往や子宮の手術歴がある場合、加齢に伴いその割合も増えるため、「前置胎盤(胎盤が子宮の出口を塞いでしまう状態)」や「癒着胎盤」のリスクも相対的に高まる傾向にあります。
出生前診断(NIPTなど)とは
高齢出産に伴い、染色体異常などのリスクへの関心が高まる中で、「出生前診断」を選択肢の一つとして考える方も増えています。
出生前診断とは、お腹の赤ちゃんが生まれる前に、先天的な形態異常、染色体異常、遺伝子疾患などがないかを調べる検査の総称です。
これらの検査を受けるかどうかは、ご夫婦(パートナー)の任意であり、強制されるものでは一切ありません。
検査には様々な種類があり、赤ちゃんへのリスクがない非確定的検査(確率を調べる検査)と、わずかながら流産などのリスクを伴うものの、診断を確定できる確定的検査に大別されます。
近年では、母体の血液を採血するだけで、ダウン症などの確率を高い精度で調べられるNIPT(新型出生前診断)が注目されています。しかし、これらの検査にはわかることとわからないことがあり、その結果がもたらす意味は非常に重いものです。検査を受けることを検討する場合は、その目的や限界、結果を知った後にどうするかを、事前に深く考える必要があります。
出生前診断でわかること・わからないこと
出生前診断とは、お腹の赤ちゃんに先天的な形態異常や染色体異常、遺伝子疾患などがないかを調べる検査の総称です。
検査にはいくつかの種類があり、大きく「非確定的検査」と「確定的検査」に分けられます。
非確定的検査は、母体からの採血(NIPT:新型出生前診断、母体血清マーカー)や超音波検査(胎児スクリーニング)などで、赤ちゃんへの直接的なリスクがなく、主にダウン症(21トリソミー)などの特定の染色体異常の「確率」を調べるものです。
一方、確定的検査は、羊水検査や絨毛検査などがあり、お腹に針を刺すなどして羊水や絨毛を採取するため、わずかながら流産のリスクを伴いますが、染色体異常の有無を「確定」できます。
これらの検査で「わかること」は、主に特定の染色体異常(ダウン症、18トリソミー、13トリソミーなど)や、一部の形態異常(心疾患、口唇口蓋裂など)、特定の遺伝子疾患です。
しかし、「わからないこと」も多く、例えば自閉スペクトラム症やADHDなどの発達障害、多くの単一遺伝子疾患、軽微な形態異常、生後の機能的な障害(視力や聴力など)は、現在の出生前診断で調べることはできません。
受ける場合の注意点と心構え
出生前診断を受けるかどうかは、ご夫婦(パートナー)が任意で決めることです。
検査を受ける前に最も重要なことは、「なぜ検査を受けたいのか」「もし陽性(またはその可能性が高い)と診断された場合、どうするのか」を、パートナーと深く話し合っておくことです。
検査結果によっては、妊娠の継続について非常に重い選択を迫られる可能性もあります。
また、NIPTなどの非確定的検査で「陽性の可能性が高い」と出た場合、診断を確定させるためには流産のリスクを伴う確定的検査(羊水検査など)を受ける必要があります。
検査結果が「陰性(可能性が低い)」であっても、それはあくまで特定の異常に対する確率が低いというだけで、赤ちゃんが100%健康であることを保証するものではありません。
検査には限界があることを理解しておく必要があります。検査を受ける前や結果が出た後には、遺伝カウンセリングなどを利用し、専門家から正確な情報を得て、自分たちの考えや価値観に基づき、十分に納得した上で選択することが不可欠です。
高齢出産に向けて注意したいこと
高齢出産には様々なリスクが伴うことは事実ですが、大切なのは、リスクを正しく理解し、妊娠前から出産に向けて「備える」ことです。
年齢を重ねてからの妊娠・出産をより安全で健やかなものにするためには、日々の生活習慣を見直し、心身ともに最良のコンディションを整えておくことが非常に重要になります。
特に、妊娠前から取り組むべき対策は多くあります。例えば、バランスの取れた食事や適度な運動は、妊娠中の合併症予防の土台となりますし、特定の栄養素の積極的な摂取も推奨されています。
また、身体的な準備だけでなく、年齢を重ねているからこその不安やストレスとどう向き合うかという、メンタル面のケアも欠かせません。
そして、自分自身の健康状態を正確に把握し、必要に応じて専門家の助けを借りることも大切です。ここでは、高齢出産に臨むにあたり、特に意識して注意したい具体的なポイントを挙げていきます。
規則正しい生活を送る
高齢出産に臨むにあたり、妊娠前から規則正しい生活を送り、母体を健康な状態に整えておくことは非常に重要です。
まずは、十分な睡眠時間の確保です。
睡眠不足はホルモンバランスの乱れやストレスの原因となり、妊娠しやすさや妊娠後の体調にも影響します。また、栄養バランスの取れた食事を1日3食、できるだけ決まった時間にとることも大切です。
特に、抗酸化作用のある野菜や果物、良質なたんぱく質、鉄分などを意識して摂取しましょう。
適度な運動、例えばウォーキングやヨガ、ストレッチなどを習慣化し、体力維持と体重管理に努めることも、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病のリスク軽減につながります。
もちろん、喫煙や過度な飲酒は、卵子の質の低下や流産、胎児の発育に深刻な悪影響を及ぼすため、厳禁です。規則正しい生活は、心身のコンディションを整え、妊娠・出産という大きなイベントを乗り切るための基盤となります。
葉酸の摂取
妊娠を計画している段階から、特に意識して摂取したい栄養素が「葉酸」です。
葉酸はビタミンB群の一種で、細胞分裂やDNAの合成に不可欠な栄養素です。
特に、妊娠初期(妊娠4週から12週頃)は、赤ちゃんの脳や脊髄の元となる「神経管」が作られる非常に重要な時期であり、この時期に母体の葉酸が不足すると、神経管閉鎖障害(二分脊椎や無脳症など)の発症リスクが高まることがわかっています。
この障害は妊娠のごく初期に発生するため、妊娠が判明してから摂取を始めては間に合わない可能性があります。
そのため、厚生労働省は、妊娠を計画している女性(または妊娠の可能性がある女性)に対し、妊娠の1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月までの間、通常の食事に加えて、サプリメントなどから1日400μg(0.4mg)の葉酸を摂取することを推奨しています。
葉酸はほうれん草やブロッコリーなどの緑黄色野菜やレバーにも多く含まれますが、熱に弱く水に溶けやすい性質があるため、食事だけで安定して必要量を摂取するのは難しく、サプリメントの活用が効率的です。
ストレスを溜めない
高齢出産には、身体的なリスクへの不安だけでなく、仕事との両立、不妊治療の経験、周囲からのプレッシャーなど、様々なストレスが伴うことがあります。
しかし、過度な精神的ストレスは、自律神経やホルモンバランスの乱れを引き起こし、血行不良を招くなどして、妊娠の妨げになったり、妊娠後のトラブル(つわり、切迫早産、妊娠高血圧症候群など)の一因となったりする可能性も指摘されています。
まずは、自分が何にストレスを感じているかを認識し、それを溜め込まない工夫をすることが大切です。パートナーや信頼できる友人、家族に正直な気持ちを話し、理解やサポートを求めましょう。趣味の時間やリラックスできる入浴、アロマ、音楽鑑賞などを意識的に取り入れ、心身を休ませることも重要です。
また、妊娠中でも可能なマタニティヨガやウォーキングなどは、適度な運動が気分転換にもなります。不安が強い場合は、カウンセリングを受けたり、医師や助産師に相談したりして、一人で抱え込まないようにしましょう。
医療機関を受診する
高齢出産を考える場合、妊娠前から医療機関を受診し、現在の健康状態をチェックしておくことが非常に重要です。
まずは婦人科で、子宮筋腫や子宮内膜症、卵巣嚢腫などの疾患がないか、超音波検査や内診を受けましょう。
これらの疾患は、不妊の原因となったり、妊娠後にトラブル(痛み、出血、早産など)を引き起こしたりすることがあります。また、高血圧、糖尿病、甲状腺疾患などの内科的な持病がある場合は、妊娠前に主治医と相談し、病状をしっかりコントロールしておく必要があります。
妊娠しても安全に使用できる薬に変更するなどの調整も必要です。
妊娠が成立した後も、高齢出産は「ハイリスク妊娠」に分類されるため、妊婦健診は必ず定期的に受けましょう。できれば、NICU(新生児集中治療室)が併設されている周産期母子医療センターや、高齢出産の経験が豊富な医療機関を選ぶと、万が一の緊急事態にも迅速に対応してもらえる安心感があります。
まとめ
高齢出産は、医学的な定義では35歳以上の初産を指し、加齢に伴い母体や赤ちゃんへの様々なリスク(妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、染色体異常など)が高まることは事実です。
しかし、これらのリスクはあくまで「確率」であり、すべての高齢出産で問題が起こるわけではありません。
現代では、多くの女性が35歳以上で健康な赤ちゃんを無事に出産しています。大切なのは、リスクを正しく理解し、過度に恐れるのではなく、それに「備える」ことです。
妊娠前から規則正しい生活を送り、葉酸を摂取するなど健康な体づくりを心がけること、妊婦健診をしっかり受け、医師と良好なコミュニケーションをとること、そして何よりパートナーと将来についてよく話し合い、協力体制を築くことが重要です。
出生前診断についても、その意味や限界を理解した上で選択することが求められます。正しい知識と十分な準備をもって、前向きな気持ちで新しい命を迎えていただければと思います。







