妊娠中に多くの妊婦さんが経験するのが「貧血」です。疲れやすい、だるいといった症状は、つわりや妊娠初期の体調不良と見過ごされがちですが、実は貧血が原因かもしれません。貧血を放置すると、ママと赤ちゃん双方に様々なリスクが生じる可能性があります。この記事では、妊娠中に貧血が起こるメカニズムから、見過ごしやすい症状、そして今日から実践できる安心な予防法や対策まで、徹底的に解説します。あなたのマタニティライフを健やかに送るために、貧血に関する正しい知識を身につけ、適切なケアを始めましょう。
目次
- ○ 妊娠中の貧血とは?
- ・鉄欠乏性貧血
- ・葉酸欠乏性貧血
- ○ 妊婦の貧血はこんなに怖い? – ママと赤ちゃんへの影響
- ・ママへの影響
- ・赤ちゃんへの影響
- ○ 妊婦貧血の「症状」と「診断」のポイント
- ・見逃しやすい貧血症状のサイン
- ・妊娠中の貧血は「検査」でわかる! – 診断の流れ
- ○ 貧血「予防」に不可欠!積極的に摂りたい「鉄分」豊富な食材
- ・ヘム鉄(動物性食品)
- ・非ヘム鉄(植物性食品)
- ・葉酸・ビタミンB12が多く含まれる食べ物
- ○ 鉄分の吸収率を上げる「味方」食材と「NG」食材
- ・鉄分の吸収を助ける「味方」栄養素
- ・鉄分の吸収を阻害する「NG」食材・飲み物
- ○ 妊婦の貧血「予防」のための献立例
- ○ 食事以外の「予防」と「対策」:生活習慣と鉄剤の活用
- ○ まとめ
妊娠中の貧血とは?
貧血とは、血液中のヘモグロビンが不足し、全身に酸素を運ぶ能力が低下した状態を指します。ヘモグロビンは、主に鉄とタンパク質から作られる赤い色素で、赤血球の中に存在します。貧血は「鉄欠乏性貧血」と「葉酸欠乏性貧血」に分けられるため、それぞれの貧血について説明します。
鉄欠乏性貧血
鉄欠乏性貧血は、ミネラルの一種である鉄分の不足が原因で起こる貧血で、妊婦さんの約9割が鉄欠乏性貧血と言われています。食事などから摂取・吸収した鉄が不足してくると身体に貯蔵している鉄が減少します。やがてヘモグロビンの合成が正常に行えなくなり、赤血球は酸素を運搬する機能を損なってしまいます。身体の中でヘモグロビンの合成が正常に行えなくなり、赤血球は酸素を運搬する機能を損なってしまう症状が鉄欠乏性貧血です。
葉酸欠乏性貧血
葉酸欠乏性貧血とは、ビタミンB群の一種である葉酸が不足することで起こる貧血です。葉酸は、タンパク質やDNAの合成などに必要な栄養素であり、赤血球を成熟させる働きも担っています。
葉酸が不足すると、赤血球が成長できずに酸素の運搬が可能な状態に育つことができません。そうすると、赤血球の本来の役割を果たせなくなり、貧血症状が起こります。
妊婦の貧血はこんなに怖い? – ママと赤ちゃんへの影響
妊娠中の貧血は、ママの体調不良に留まらず、お腹の赤ちゃんの発育にも影響を及ぼす可能性があります。それぞれどのような影響があるかを解説します。
ママへの影響
貧血が進むと、酸素不足により体がだるい、疲れやすいといった日常的な症状が強くなるだけでなく、めまいや立ちくらみ、動悸、息切れといった症状に悩まされることがあります。さらに、妊娠高血圧症候群のリスクが高まったり、分娩時に出血量が増えやすくなったり、陣痛が弱くなる(微弱陣痛)など、出産時のトラブルにつながることも。産後も貧血が続くと、回復が遅れたり、産後うつを発症するリスクが高まる可能性があるとも言われています。
赤ちゃんへの影響
ママの貧血は、赤ちゃんへの酸素や栄養供給不足に直結します。これにより、低出生体重児や早産のリスクが高まることが指摘されています。また、胎児の発育が十分に進まない胎児発育不全の可能性も示唆されています。生まれてきた赤ちゃんも、ママが貧血だった場合は出生後に鉄欠乏性貧血になりやすい傾向があるため、妊娠中の貧血対策は、赤ちゃんの健やかな成長のためにも非常に重要です。
妊婦貧血の「症状」と「診断」のポイント
女性は妊娠の有無にかかわらず、貧血気味の方が多いですが、妊娠中は特につわりや妊娠の初期症状と似た特徴があるため貧血を見逃しがちです。
貧血のサインを見逃さないように、どういう症状だと貧血の可能性があるか認識しておくことが大切です。
見逃しやすい貧血症状のサイン
妊娠中の貧血は、自覚症状が出にくいことが特徴です。初期の貧血では、「なんとなく体がだるい」「疲れがとれない」「眠い」といった、妊娠初期や中期によくある症状と区別がつきにくいことが多いです。しかし、貧血が進行すると、顔色が青白い、爪の色が悪い、めまいや立ちくらみが頻繁に起こる、少し動いただけでも動悸や息切れがする、頭痛、食欲不振、むくみなどの症状が現れやすくなります。また、貧血による異食症では、氷を食べたくなる症状がみられることも珍しくありません。もし、これらの症状に心当たりがある場合は、自己判断せずに必ず妊婦健診の際に医師や助産師に相談しましょう。早期に気づき、適切な対策を始めることが重要です。
妊娠中の貧血は「検査」でわかる! – 診断の流れ
妊婦健診では、定期的に血液検査が行われます。これは、貧血の早期発見と診断のために非常に重要な検査です。血液検査では、主にヘモグロビン(Hb)値が測定されます。妊婦さんの場合、ヘモグロビン値が11.0g/dL未満であれば貧血と診断されることが一般的です。さらに、ヘマトクリット値(Ht)、MCV(平均赤血球容積)、フェリチン値なども参考にしながら、貧血の種類や原因を特定します。フェリチン値は体内に蓄えられている貯蔵鉄の量を表すため、隠れた鉄不足を見つけるのに役立ちます。検査で貧血と診断された場合は、医師から適切な治療法(鉄剤の処方など)や生活指導が提案されますので、指示に従って対応しましょう。
貧血「予防」に不可欠!積極的に摂りたい「鉄分」豊富な食材
貧血予防の基本は、日々の食事から鉄分をしっかり摂取することです。鉄分には、動物性食品に含まれるヘム鉄と、植物性食品に含まれる非ヘム鉄の2種類があります。ヘム鉄の方が体内への吸収率が高いのが特徴です。具体的な食材を見ていきましょう。
ヘム鉄(動物性食品)
・レバー(豚、鶏):鉄分が非常に豊富です。ただし、ビタミンAも多いため、摂取量には注意が必要です。
・赤身肉(牛肉、豚肉): ヒレ肉やもも肉など、脂身の少ない部分を選びましょう。
・カツオ、マグロ、アサリ、イワシ: 魚介類も良いヘム鉄源です。特にアサリは手軽に摂取できます。
・卵:完全栄養食品とも呼ばれる卵も、鉄分を含んでいます。
非ヘム鉄(植物性食品)
・ほうれん草、小松菜、ブロッコリー:緑黄色野菜は食物繊維やビタミンも豊富です。
・ひじき、わかめ、のり:海藻類も非ヘム鉄を含みます。
・大豆製品(豆腐、納豆、きな粉):良質な植物性タンパク質も同時に摂取できます。
・プルーン:手軽に鉄分補給できるドライフルーツです。
葉酸・ビタミンB12が多く含まれる食べ物
鉄分だけでなく、貧血予防には葉酸やビタミンB12も重要です。葉酸は赤血球の形成に不可欠なビタミンで、妊娠初期の赤ちゃんの神経管閉鎖障害の予防に重要なことは広く知られており、妊娠前から積極的に摂取することが推奨されています。
ビタミンB12も葉酸と共に赤血球の成熟を助けます。特に動物性食品に多く含まれるため、菜食主義の方は不足しがちになることがあります。
これらの栄養素もバランス良く摂取することで、より総合的な貧血予防につながります。
鉄分の吸収率を上げる「味方」食材と「NG」食材
日々の食事から摂取する鉄分は、より吸収しやすい食材としにくい食材があります。鉄分を効率よく吸収するためには、食べ合わせが重要です。
鉄分の吸収を助ける「味方」栄養素
・ビタミンC:鉄分(特に非ヘム鉄)の吸収率を格段にアップさせます。柑橘類(みかん、レモン)、いちご、キウイ、ブロッコリー、ピーマン、パプリカ、じゃがいもなどと一緒に摂るのがおすすめです。例えば、ほうれん草のおひたしにレモンを絞ったり、食後にフルーツを食べたりすると良いでしょう。
・タンパク質:もヘモグロビンの材料となるだけでなく、鉄の吸収も助けます。肉、魚、卵、大豆製品など、バランス良く摂取しましょう。
鉄分の吸収を阻害する「NG」食材・飲み物
・タンニン:紅茶、コーヒー、緑茶などに含まれるタンニンは、鉄分の吸収を阻害します。食事中や食後すぐの摂取は避け、食後30分~1時間以上時間を空けるか、麦茶やほうじ茶などタンニンが少ない飲み物を選ぶのが賢明です。
・フィチン酸:玄米や豆類の外皮に含まれ、鉄の吸収を阻害することがあります。
・シュウ酸:ほうれん草などに含まれますが、茹でることで減らせます。
妊婦の貧血「予防」のための献立例
日々の食事で鉄分を効率的に摂るための具体的な献立例と調理のヒントをご紹介します。
朝食: 全粒粉パン+卵料理+小松菜とバナナのスムージー(ビタミンC補給)。
昼食: 玄米ごはん+アサリと野菜のチャンプルー+キウイ。
夕食: 赤身肉のソテー(レモン添え)+ひじきの煮物+味噌汁(豆腐、わかめ入り)。
非ヘム鉄を含む野菜(ほうれん草など)は、茹でてから調理することでシュウ酸を減らし、吸収率を高めます。
酢や柑橘類と一緒に摂ると、非ヘム鉄の吸収が促進されます。
市販品やコンビニで商品を選ぶ際は、鉄分強化のヨーグルトや飲料、鉄分が添加されたパンなどを活用するのも良いでしょう。ただし、過剰摂取にならないよう栄養成分表示を確認しましょう。
食事以外の「予防」と「対策」:生活習慣と鉄剤の活用
貧血は、食事だけでなく規則正しい日々の「生活習慣」での貧血予防も大切です。
まず、妊娠中は体が疲れやすく、貧血気味だとさらに疲労感が増します。そんな時は無理せずに休息を取りましょう。ウォーキングなどの適度な有酸素運動は、血流を改善し、全身の酸素供給を促進するのに役立ちます。ただし、体調と相談しながら無理のない範囲で、必ず医師の許可を得た上で行うことが大切です。
食事からの摂取だけでは、妊娠中の増大する鉄需要を賄いきれないことが多いため、医師から鉄剤が処方されることがあります。鉄分のサプリメントもありますが、自己判断で過剰な鉄分の摂取は身体によくないため、必ず医師の指示に従って服用しましょう。また、医師から処方された鉄剤を服用して吐き気や便秘などの症状が出た際も、自己判断で服用を中止せず症状を医師に相談して指示を仰ぐようにしてください。
まとめ
妊娠中の貧血は、多くの妊婦さんが経験する身近な問題でありながら、見過ごされがちなテーマです。しかし、適切な知識を持ち、早期に「予防」と「対策」を行うことで、ママと赤ちゃんの健康を守ることができます。
日々の食事で鉄分豊富な食材を積極的に取り入れ、吸収率を高める工夫をする。規則正しい生活習慣を心がけ、適度な運動や休息を取り入れる。そして、医師から鉄剤が処方された場合は、指示通りに服用し、定期的な妊婦健診で自分の体の状態をチェックし続けることが何よりも大切です。
もし、貧血に関して少しでも不安を感じたら、一人で悩まずにかかりつけの産婦人科医や助産師に相談しましょう。